論文詳細

ストレスおよびストレスに起因する組織損傷・炎症に対する50Hz電界の抑制的効果を発見

【リリース概要】

国立大学法人帯広畜産大学 生命平衡科学講座(白寿) 客員教授 原川信二らの研究グループは、50Hz の電界処置が、ストレスホルモンの上昇だけでなく、ストレスによって引き起こされる組織損傷や炎症の血液マーカーの上昇に対しても抑制的に働くことを、マウスを用いた実験により発見しました。本研究成果は、電界の生物学的作用の解明に寄与するとともに、ストレスや炎症は、睡眠障害、精神疾患、免疫の低下、メタボリックシンドローム、動脈硬化、心臓病、骨粗鬆症やフレイル・サルコペニアなど多用な疾患の原因または増悪因子であることから、電界の予防医学的な活用につながる事が期待されます。

 

本成果は、令和 2 年 12 月 7 日(日本時間 19 時)に英国科学誌 Scientific Reports に掲載されました。

 


図 1. 狭い空間に閉じ込められたマウスと同環境で電界を処置されるマウス

 

【発表のポイント】

1.電界の生物学的な作用を検討する目的で、マウスを拘束した際に認められるグルココルチコイドの上昇に対する 50Hz 電界の効果を調べたところ、拘束時の上昇を電界が凡そ30%抑制する結果を認め、同グループでは、これを評価モデルとし、作用機序の解明や、電界の効果的な処置方法の研究を行っています。

2. 上記評価モデルを用いた 32 の異なる実験より得られた成績のプール解析を行ったところ、拘束によるグルココルチコイドの上昇に対する抑制は、全実験で再現されており、また、季節や実験時間の影響は受けないことが示されました。

3. 拘束されたマウスでは、組織損傷や炎症の指標も増加していましたが、同時に電界を処置されたマウスではグルココルチコイドだけでなく、これらの指標のレベルも抑制されていました。

4. 本結果が、ストレス応答だけでなく、ストレスが引き起こす組織損傷や炎症を抑える働きを示しているならば、ストレスや炎症は多くの疾患の原因となることから、その意義は大きいと考えられます。

5. ストレスを負荷していない状態での電界処置には、僅かにグルココルチコイドレベルをあげる作用があることが新たにわかり、今後詳細な検討へ進みます。

 

【概要】

地球上には元来静電界が存在します。また、現代では多種多様な家電製品や大掛かりな電気設備が我々の生活にとって不可欠となっていますが、これらからは交流の電界が発生しています。本学生命平衡科学講座と株式会社白寿生科学研究所は、交流電界のうち、周波数が極めて低い超低周波電界の生物学的作用の予防医学への応用を主要なテーマとして研究を行っています。2020 年までに、ストレスによって上昇するストレスホルモンとして知られるグルココルチコイドの血中濃度を電界(50Hz)が抑制することを、マウスを狭い空間に閉じ込めることによって生じるグルココルチコイドの上昇を指標にした実験で発見しました。また、同作用は生体が処置される電界の強さや処置時間、電界に曝される生体の体表面積に比例することとや、同作用が周囲の照度(明るさ)や音に影響を受けること、性別や週齢に関わらず発揮されること等を明らかにしてきました。

 

本研究では、同モデルを用いた 32 実験の結果をプールし解析しました。その結果、電界のストレス応答に対する抑制的な効果は、実験を行った季節な時間帯に関わらず発揮されることがわかりました (図 1, 2)。また、ストレスを負荷されたマウスでは組織損傷や炎症が起きた際に増えるいくつかの酵素(LDH, GOT, GPT)が電界処置によって抑制されていることが血液検査によって明らかになりました。メタボローム解析の結果もこれを支持しており、電界のストレス軽減効果は、組織損傷または炎症にも及んでいる可能性を示すものと考えられます。更に、これまではストレスを負荷されていない状態での電界処置は無影響だと思われていましたが、本解析によって、グルココルチコイドを僅かに増加させていたことがわかりました (図 2)。しかし、拘束時の変化量と比べると僅かで、また、上記の組織損傷や炎症の指標となる物質のレベルは変化していませんでした。生体の状況によって異なる方向の効果が現れるメカニズム解明は今後の課題ですが、少なくとも、電界処置による生物学的作用を発揮させるには相応の調整を要すると言うことはできると思われます。

 

【発表雑誌】

雑誌名:Scientific Reports

論文名:Extremely low-frequency electric field suppresses not only induced stressresponse but also stress-related tissue damage in mice

著者名:原川信二(帯広畜産大学 寄付講座 生命平衡科学講座(白寿)客員教授)、根立隆樹(株式会社 白寿生科学研究所 研究員)、鈴木宏志(帯広畜産大学 原虫病研究センター 教授)

DOI:10.1038/s41598-020-76106-1

https://www.nature.com/articles/s41598-020-76106-1