論文詳細

電界(超低周波帯域)はストレスへの抑制的作用を有し、また、その効果は電界が処置される生体の体表面積に比例することを明らかにした

【概要】

地球上には元来静電界(いわば直流の電界)が存在します。また、現代では多種多様な家電製品や大掛かりな電気設備が我々の生活にとって不可欠となっていますが、これらからは交流の電界が発生しています。本学生命平衡科学講座と株式会社白寿生科学研究所は、交流電界のうち、周波数が極めて低い超低周波電界の生物学的作用を主要なテーマとして研究を行っています。2017 年までに、ストレスによって上昇するストレスホルモンとして知られるグルココルチコイドの血中濃度を電界(50Hz)が抑制することを、マウスを狭い空間に閉じ込めることによって生じるグルココルチコイドの上昇を指標にした実験で発見しました。また、同作用は生体が処置される電界の強さや処置時間によって変化することや、作用機序としてグルココルチコイド産生・放出の抑制が関与するであろうことを報告してきました。今回は、電界の作用を再現性高く認められる同モデルを用い、ストレス応答に対する電界の抑制的作用が電界に曝される生体の体表面積に比例すること と、電界処置時の周囲の照度(明るさ)が同作用の程度に影響する、電界を発生させるための出力の周波数は50Hz でも 60Hz でも同程度の効果を有すること 等を明らかにしました。これらの成果は、電界の生物学的作用は電界強度や処置時間だけでなく、電界に処置される体表面積によって制御可能であることを意味すると考えられます。

 

【本研究成果の意義】

現在の電界の治療応用は、一つあるいは二つ以上を配された電極間に形成された電界の中にヒトまたは動物を入れる方法がとられていますが、生体表面の電界分布は、生体の大きさや姿勢、または周囲の環境(壁や障害物など)によって顕著に変化すること、我々の一連の成果から、電界の形成が生物学的効果に影響を及ぼすことが明らかになり、特に、今回認められた、電界のあたる面積と効果の程度に相関性が認められた成果等から、電界を用いた治療をより効率的に実施するための原理的な情報 として活用されていくと思われます。同時に、ストレスが多くの疾患の原因や増悪因子となる ことが良く知られていますので、我々が発見した 電界のストレスへの抑制的な作用は、予防医学的見地や未病的視点から、既に超高齢化社会に突入した我が国における健康寿命の延伸や、膨らむ一途の医療費の削減のための一方策 となりうると考えています。

 

【発表のポイント】

1.商用周波数帯域の電界による生物学的作用、すなわち、拘束されたマウスのストレス応答に関連したホルモン、グルココルチコイドの血中濃度の上昇に対する抑制的な働きが、改めて認められました。

2.電界自体がストレスとなる現象は認められませんでした。

3.マウスの身体の一部または全身を導電性のシートで覆うことで、電界に処置される体表面積を変えたところ、「拘束により引き起こされるグルココルチコイドの血中濃度の上昇に対する電界の抑制的な働き」と比例し、電界に処置される面積が広い程効果が大きくなることがわかりました。電界の生物学的作用(治療的利用・健康リスク)を詳細に検討する為には、電界が処置される面積に留意すべきことがわかりました。

4.電界処置時の照度が電界の生物学的作用に影響することがわかりました。

5.周波数が 50Hz と 60Hz の電界で「拘束により引き起こされるグルココルチコイドの血中濃度の上昇に対する電界の抑制的な働き」を比較したところ、差は無く、ストレスへの抑制的な効果が認められました。

6.今後の課題としては、面積が同じならば身体のどこに当てても電界の効果は同じなのか、電界を当てる部位により効果の程度が変化するかを確かめる必要があります。

 

【発表論文】

雑誌名: Bioelectromagnetics

論文タイトル: Characterization of the suppressive effects of extremely-lowfrequency electric fields on a stress-induced increase in the plasma glucocorticoid level in mice

著者: 堀卓也 (Takuya Hori) 根立隆樹 (Takaki Nedachi) 鈴木宏志 (Hiroshi Suzuki)原川信二 (Shinji Harakawa)

Article DOI: 10.1002/bem.22138

論文 URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30091796

 

【関連論文】

1.Hori T, Inoue N, Suzuki H, Harakawa S. 2017. Configuration-dependent variability of the effect of an electric field on the plasma glucocorticoid level in immobilized mice. Bioelectromagnetics 38:265-271.

2.Harakawa S, Hori T, Inoue N, Suzuki H. 2017. Time-dependent changes in the suppressive effect of electric field exposure on immobilization-induced plasma glucocorticoid increase in mice. Bioelectromagnetics 38:272-279.

3.Hori T, Inoue N, Suzuki H, Harakawa S. 2015. Exposure to 50 Hz electric fields reduces stress-induced glucocorticoid levels in BALB/c mice in a kV/m and duration-dependent manner. Bioelectromagnetics 36:302-308.

4.Harakawa S, Takahashi I, Doge F, Martin DE. 2004. Effect of a 50 Hz electric field on plasma ACTH, glucose, lactate, and pyruvate levels in stressed rats.Bioelectromagnetics 25:346-351.