論文詳細

電界のストレスへの抑制的作用(マウス)は電界に処置される体表面積および部位によって変化する

帯広畜産大学 生命平衡科学講座(白寿)の原川信二客員教授の研究グループは,50Hzの電界がストレス応答時のへ抑制的に働くこと,同作用は電界に処置される体表面積を減らすと減衰し,また,同作用の強さが処置される部位によって異なる可能性があることを発見しました。

本研究の目的は,マウスに拘束ストレスを負荷すると認められる内因性ステロイドであるグルココルチコイドの血中レベル上昇に対して電界が抑制的に働く現象を利用した,電界の生物学的作用の理解の前進です。全身への電界処置と比べ,電界を遮る性質を有す薄いシートを使って電界に処置される体表面積を狭めると,同作用が減衰しました。本現象は,頭部を遮蔽しても腹部を遮蔽しても認められました。しかし,電界を遮蔽する面積を変えたところ,頭部の方が遮蔽の影響が現れやすい可能性が示されました。本発見は,日常生活において意図せず曝露される電界の健康上の懸念に関してだけでなく,電界の医療応用のための研究開発にとっても基本的な情報となります。

本論文は,2022 年 2 月 17 日に Biology 誌に掲載されました。

 

発表概要

電気や電気製品の需要の増加に伴い,現代人の多くは,日常的にそして意図せず電界に曝(さら)されています。電界曝露による健康上の重大な悪影響は今のところ確認されていませんが,軽微な生理的影響が生じることが知られています。他方,医療目的として被験者に電界を処置する方法や装置が存在します。しかし,電界の生物学的作用の作用機序は,目に見えず,障害物に邪魔されやすい,つまり安定した処置量を整えるのが困難な電界の物理的性質による所が大きいと思われますが,いまだに明確になっていません。我々はこれまでに,手技が簡便で,且つ,所要時間が比較的短時間(60 分)の実験系を用い,ストレス負荷時に起きるグルココルチコイド(GC)の血中レベルが増加する反応に対し電界が抑制的な作用を有すことを発見しました。本研究では,本実験系を利用して電界の生物学的作用の理解を深める目的で,いくつかの異なる条件下での実験を試みました。結果として,GC 応答に対する抑制作用が体表面の電界を遮蔽すると減衰することを見出しました。このことは電界の作用のトリガーと考えられている誘導電流および体表刺激のうち,体表刺激の重要性を支持する結果といえます。また,遮蔽実験を頭部と腹部との比較として行った結果,どちらを遮蔽しても電界の効果は減衰しましたが,頭部を遮蔽した場合の方がより減衰しやすい可能性があることが分かりました。この結果は,電界の作用を腹部よりも頭部の方が受けやすい可能性を示します。また,本論文では,同作用が繰り返されるストレスに対しても発揮されること,電界を発生させる平行平板において電圧を印加する電極を入れ替えて同作用に影響がなかったこと,ストレス負荷時に認められる体重減少に対しての電界の影響は観察されなかったことが述べられています。以上の成果は,GC 反応を含むストレス系における電界作用の理解を深めるための基本的な情報となります。

社会的意義

電界は地表と成層圏の間に形成される他,通常生活中に家電製品や電気設備などが発生させており,ごく身近な存在と言えますが,視覚で捉えることはできません。商用周波数帯の電界がただちに重篤な健康被害を引き起こすことは想定されていませんが,電気設備と送電網の拡大に加え,通信技術も急速に発達しており,周囲の電界源が増加しているのは事実であり,電界の健康に及ぼす影響は注意深く観察していく必要があります。本実験を含む一連の研究により進展する,商用周波数の電界の生物学的作用に関する成績の体系化や構造化は,こうした問題に対して基本的な情報を提供することになります。また,電界を医療応用する取り組みが進んでいますが,本研究成果である電界に処置される面積や場所と効果との関係に関する成績は,電界の医療応用時の電極配置や,電界で狙う部位など,アプリケーションとしての仕様決定の根拠となることが期待されます。

発表者

原川 信二(帯広畜産大学 生命平衡科学講座(白寿) 客員教授)

根立 隆樹(株式会社 白寿生科学研究所 研究員)

榛葉 俊一(静岡済生会総合病院 医師)

鈴木 宏志(帯広畜産大学 原虫病研究センター 教授)

 

発表雑誌

発表雑誌名:Biology

論文名:Stress-Reducing Effect of a 50 Hz Electric Field in Mice after Repeated Immobilizations, Electric Field Shields, and Polarization of the Electrodes

著者:Shinji Harakawa, Takaki Nedachi, Toshikazu Shinba and Hiroshi Suzuki

論文 URLhttps://doi.org/10.3390/biology11020323