論文詳細
電界(超低周波帯域)はストレス(マウス)への抑制的作用を有し、また、その効果は電界の強度や処置時間の影響をうけることを明らかにした
本研究では,雄のBALB/cマウスを用い,50Hzの電界を処置された際の内分泌系の指標としてグルココルチコイド(GC)の血漿中濃度を測定しました。GCは、マウスの拘束を含むストレス反応を反映することが知られています。マウスは50Hzの2.5kV/mから200kV/mまでの異なる強度の電界を60分間処置されました。拘束ストレスとして、電界処置時間の後半30分、マウスを50mLの遠心管に固定しました。曝露期間終了後に麻酔下にただちに採血し、血中GCレベルは硫酸蛍光法にて推定しました。
拘束されず電界のみ処置されたマウスと拘束も電界も処置されなかったマウスとの間でGCレベルに差異を認めませんでしたが、拘束されたマウスのGCレベルは無処置マウスのそれと比べ有意に高値をしめしました(P < 0.01)。拘束よって引き起こされたと考えられるGCレベルの高値は、10kV/mの電界処置群では有意に減少し(P < 0.05)、さらに、0-10kV/mの電界強度で比較すると、GCレベルの抑制的な変化はkV/m依存的でした(P < 0.05)。ところが、50kV/mおよび200kV/mの電界を処置されたマウスのGCレベルは、10kV/mで観察されたものよりも高値を示し、抑制的な作用は弱まったようでした。
本研究では、電界処理時間の影響を評価する目的で、50Hzの電界(10kV/m)に6、20、60分間処置する群も設けており、その結果、拘束処置によるGCレベルの上昇は、20分および60分のEF曝露によって有意に抑制されていましたが、6分の処置では有意差を認めませんでした。以上の結果から、拘束されたマウスへの50Hz電界処置はストレス応答へ抑制的作用を示すことと、その作用は電界強度と電界処置時間の影響を受けることが明らかになりました。
【本研究成果の意義】
電界の医療応用としては、現在一つあるいは二つ以上の電極間に形成された電界の中にヒトまたは動物を入れる方法がとられており、筋骨格系の痛みや不眠、慢性便秘など、恒常性の不具合が原因とされるいわゆる不定愁訴に対して多くの観察結果が蓄積されています。これらの症状の多くはストレスが原因または増悪因子となることが知られていますので、我々が発見した電界のストレスへの抑制的な作用は、予防医学的見地や未病的視点から、既に超高齢化社会に突入した我が国における健康寿命の延伸や、膨らむ一途の医療費の削減のために不可欠となっていくであろうセルフメディケーションの一方策と位置付ける前向きな情報となると考えています。
【発表論文】
雑誌名: Bioelectromagnetics
論文タイトル: Exposure to 50 Hz electric fields reduces stress-induced glucocorticoid levels in BALB/c mice in a kV/m- and duration-dependent manner.
著者: 堀卓也 (Takuya Hori) 井上昇(Noboru Inoue)鈴木宏志 (Hiroshi Suzuki)原川信二 (Shinji Harakawa)
Article DOI: 10.1002/bem.21914
論文 URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30091796